
本来のがん抑制の仕組みはリンパ球にさせるべきである。 医師側ががんと直接対決するのではなく、 間接的に対決した方がよい。生体の持つ自己治癒能力を 温存したり増幅したりする、つまり生体自身に戦わせ る治療がより効果的であると筆者は信じている。リンパ球は がんを認識すると、リンフォカインやパーフォリン といった、抗がん作用を持った物質を獲得し(活性化し)、 がん細胞の細胞壁に穴をあけたりして壊死に追い込む。
当院では、がん治療法の一環として、活性化リンパ球 療法を推し進めている。がんに罹患したイヌの血液を 採取し、その血液中のリンパ球を培養し活性化し、約 千倍に増殖し、しかも活性化させた強力なリンパ球 を静脈点滴にて、その患者に戻すのである。さらに最近 ではリンパ球へがん抗原を教え込む樹状細胞療法と組み 合わせたDC+CAT療法としてがん免疫療法の最先端 治療を取り入れ始めている。
また、全国の各都道府県に核となる病院を募り、その動物病院 のスタッフに細胞培養の技術をコーチしている。各県の 核病院は細胞培養のノウハウと施設とメンバーを揃えた 病院である。もし従来の抗がん剤治療に疑問を持たれたら、 各県の核病院(図10) にお問い合わせいただきたい。
がんを抑制するのにリンパ球が良いというお話しを進め てきたが、ストレスがかかっているときには、自律神経 の交感神経興奮状態にあり、このときには血中の顆粒球 が多く、リンパ球が減少しており、がんが発生しやすい という。これは米国のウォルター・キャノン、スイス生まれの ハンス・セリエ、新潟大学医学部の安保徹先生のご研究に よるものである。ストレスが掛かっていないときには、 血中の顆粒球は少なく、リンパ球は増えており、がんを 発生させにくい状況にあるという。我々のように生体や 生命を預かる仕事にはストレスが付きものである。なる べくストレスを貯めないようにしたいものである。
犬猫の活性化リンパ球療法も例数が増え、2008年6月の時 点で、日本全国の動物病院で約1200回の培養と投与がな された。当初、獣医再生医療研究会の会員は、活性化リ ンパ球療法を自病院で行っている獣医師が集っていたが、 今はそれに留まらず純粋に再生医療を勉強したい人の集 まりになっている。これからの獣医再生医療は、全国に広 がるであろう。
ただ懸念することは、たとえば東京の都心に1件の核と なる施設があり、そこでしか培養が許されないとか、ある 特定の企業が培養を独占するとか、そういった考え方は結 果として獣医再生医療を広めないし進歩させない。私が望 んでいるのは、各都道府県に1~2件以上の培養可能病院が あり、日本全国どこに住んでいようと、獣医師や飼い主さん がすぐに駆けつけることができるという細かい対応のできる システムである。ヒトの医学では、すでにそれが浸透して きており、各地域に培養可能病院が設置され拡充されて来ている。 地域の連携連帯が必須である。
もしも各地域に培養施設が許されないと いう事情があるとすれば、コンタミネーション(細菌汚染) であろう。細胞を培養する能力のある培養液と施設は、 細菌の培養もしてしまうのである。 したがって、細胞を培養する施設は、コンタミ ネーションを起こさないための考え方や手技をしっかりと 学ぶ必要がある。ただ、コンタミネーションを起こしにくく するソフト面とハード面の改良は着実に進んでおり、これが 順風になっていると感じている。ここで気を付けなければ ならないことは、採血するときにすでに細菌汚染してしまう ことも充分にあり得るので、採血時の採血担当者自身の 衛生観念も非常に重要である。
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再生医療によって、従来治らないと諦められてきた病気が どんどん治りつつある。再生医療の幕開けの時代から時を経て、 大きな前進が見られ、いよいよ加速して臨床に広く用いられ 治る時代に突入してきたと感じるのである。患者自身の細胞 を使うため、拒絶反応がなく、薬の副作用もなく、大きな手術も 要らない。いわば「生体が待ち望んでいた治療」と呼ぶことは できないだろうか。抗がん剤などで力ずくの治療をしてきた 我々獣医師は、生体に対して真摯に向き合い、生体の自己治 癒能力を温存し増幅するこの再生医療を進歩させていく義務 があると私は感じている。


